記憶に残った旅や本、そして映画などなど

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知ろうとすること(早野龍五・糸井重里/新潮文庫)

2011年の大震災が起きて、福島の原発のニュースが絶えなかった頃、どの情報を信用していいのかわからなかった時期がありました。私個人としては、大切な人が福島に住んでいることもあって大丈夫だと信じたかったのですが、自分の中で根拠となるものが見つけられずに不安でたまらなかった。

 

 この本は糸井重里さんと東京大学大学院理学系研究科教授の早野龍五さんが出版された本ですが、出会いは糸井さんのツイッター。お二人もツイッター上で出会われたそうです。震災直後、早野さんはツイッターで事実を分析して発信し続けていました。そのツイッターが心の拠り所となっていた人も多かったと聞きます。

 

 やたらと安全だと叫ぶ人、何が何でも危ないと主張する人。様々な人がいましたが、そういう人たちの話に嫌悪感すら感じていたのは、根拠とセットになっていなかったから。

 でもこの本は、ひとつひとつ事実に基づいて話が組み立てられているので、ストンと自分の中に「落ちてくる」という感覚がありました。

 

 筆者の早野さんは、淡々と事実だけを語っていて感情的になりません。科学的な根拠もちゃんと示されているのだけれど、小難しい分析データや表はほとんど入っていないので難しく感じないのです。自分の頭できちんと理解ができるから、これなら信用できるなと思いました。本書の中にある「正しい知識で、正しく怖がる」という言葉は本当に大事なことです。

 

 震災後しばらく、FacebookTwitterでショッキングな情報をシェアしまくっていた人が周りにもいましたが、根底にある気持ちはやっぱり「怖い」という不安だったのでしょうね。ただ、むやみに拡散する人って私は好きになれませんが。他の人に良かれと思って拡散しているのでしょうけれど、結局不安を煽ることにしか繋がらないから。

 

 192ページの文庫本なので決して長いと感じる分量ではありません。その上、対談形式で進んでいくから読みやすいのに、本当にたくさんのことが詰まっています。不安になった時に、その不安とどう立ち向かえばいいかを知るために、読んでおいて損はしない本です。

 

知ろうとすること。 (新潮文庫)