余命 (谷村志穂/新潮文庫)
タイトルからちょっと内容が想像できてしまうのだけれど、やっぱり想像通りの内容でした。ただこの本を手に取ったのは、当時私もちょっとした病気を抱えていて入院と手術を経験したばかりだったから。
そんな状況でよく読めたなと思いますが、逆にそんな状況だったからこそ惹かれたのではないかとも思います。
医師の百田滴は、20代の後半乳がんが発覚した時に右の乳房を全摘出します。その後結婚10年目の節目に妊娠していることがわかって喜んだのもつかの間、乳がん再発も発覚し、自分の命と子供の命を天秤にかけるのです。
周りに話せば、きっと母親の命を優先してほしいと言われるのでしょう。だから滴は乳がんの再発を夫にも言わなかった。その気持ちはなんとなくわかります。
私自身の話をすると、私の病気は早期の発見だったので入院も短かったですし、命にもほとんど関わらなくてすみましたが、もう少し遅かったら子供を産めなくなる可能性もありました。だから滴のように今産まないともう子供を産めない、でも産むと自分の命に関わるという究極の選択をしなければならなくなったらどうするんだろう。
愛する人との子供は当然欲しいと思う。だからどうにか産める道を探すだろうとは思うのですが、少なくとも周りに言わないということはできません。病というもの、妊娠というものを描きつつも、雫と夫の関係を描いた夫婦の物語でもあります。
病気というものをよく知っている滴だからできた判断であるような気もします。だからこそ医師ではない読み手には理解しがたいのかもしれません。だからこの小説の感想は、がんを経験した人、結婚している人、出産経験がある人、そして男性なのか女性なのか。読み手の立場によって分かれるのだと思います。
ドラマ化・映画化されていることからも、注目度の高かった小説なのだなと思います。キャストは、ドラマは水野美紀さん、映画は松雪泰子さん。どちらも好きな女優さんなので、ぜひ見てみたいなと思います。