記憶に残った旅や本、そして映画などなど

これまでの旅やら読書やらでいつまでたっても記憶に残っているものを紹介します

サクリファイス (近藤史恵/新潮文庫)

まず言いたいのは、ロードレースが好きな人は読んでみるべき、ということ。

 

 昨今、漫画「弱虫ペダル」の影響もあり人気が高まっている自転車ロードレースですが、この「サクリファイス」はその自転車ロードレースを題材にした小説です。

 

だからと言って自転車ロードレースを全く知らない人は楽しめないのかというと、決してそうではありません。実際私はこの小説を読んだときは全くロードレースやロードバイクに興味はありませんでした。

 

 なのに、「今まで読んだ本の中で、いちばん生活を変えてくれた本」だと断言できます。なぜなら、読んだ以降、ロードレースを生で観戦するほどハマり、ロードバイクに乗りはじめるという生活が始まったから。

 

小説でも、マンガでも、テレビでも、自分が興味を持てることに出会うというのは本当に貴重なことだと思うのですが、私の場合はこの「サクリファイス」を読んでから、自分の世界が広がりました。

 

 主人公は、過去にオリンピックを目指せると言われたほどの元陸上選手。しかし彼はプロのロードレーサーとして自転車に乗る生活をしています。なぜ、主人公は前途有望な陸上の道ではなく、自転車ロードレースを選んだのか。しかも、主人公は所属するチームの「エース」ではなく、「アシスト」として走り続けます。

 

 案外知られていませんが、自転車ロードレースは「チーム戦」。1チーム8~9人で構成される選手の中にはエースとアシストがおり、アシストは自分の勝利ではなく、エースの勝利のためにひたすら走り続けます。アシストがゴール直前までエースの風よけとなることで、エースは最後まで体力を温存。そしてゴール数百メートルのところで“発射”され、時速60キロとも70キロとも言われる速度でゴールを目指す“ゴール前スプリント”は圧巻ですよ。

 

 そして主人公は、自分のチームにかつて所属していた選手が下半身不随になるほどの大けがを負うほどのアクシデントが起きていたことを知ります。それは事故なのか、それとも仕組まれたことだったのかー。

 

スポーツ一色の話かと思いがちですが、ミステリー要素がしっかりと絡んできます。作者の近藤史恵さんは、インタビューで「自転車ロードレースは、心理的な駆け引きが複雑で、競技自体がミステリーとなじむ」と仰っています。

 

 主人公が魅せられたロードレースという世界。その魅力と奥深さを垣間見ることがでる小説です。 

 

 

サクリファイス (新潮文庫)

余命 (谷村志穂/新潮文庫)

タイトルからちょっと内容が想像できてしまうのだけれど、やっぱり想像通りの内容でした。ただこの本を手に取ったのは、当時私もちょっとした病気を抱えていて入院と手術を経験したばかりだったから。

 そんな状況でよく読めたなと思いますが、逆にそんな状況だったからこそ惹かれたのではないかとも思います。

 

 医師の百田滴は、20代の後半乳がんが発覚した時に右の乳房を全摘出します。その後結婚10年目の節目に妊娠していることがわかって喜んだのもつかの間、乳がん再発も発覚し、自分の命と子供の命を天秤にかけるのです。

 

 周りに話せば、きっと母親の命を優先してほしいと言われるのでしょう。だから滴は乳がんの再発を夫にも言わなかった。その気持ちはなんとなくわかります。

 私自身の話をすると、私の病気は早期の発見だったので入院も短かったですし、命にもほとんど関わらなくてすみましたが、もう少し遅かったら子供を産めなくなる可能性もありました。だから滴のように今産まないともう子供を産めない、でも産むと自分の命に関わるという究極の選択をしなければならなくなったらどうするんだろう。

 愛する人との子供は当然欲しいと思う。だからどうにか産める道を探すだろうとは思うのですが、少なくとも周りに言わないということはできません。病というもの、妊娠というものを描きつつも、雫と夫の関係を描いた夫婦の物語でもあります。

 

 病気というものをよく知っている滴だからできた判断であるような気もします。だからこそ医師ではない読み手には理解しがたいのかもしれません。だからこの小説の感想は、がんを経験した人、結婚している人、出産経験がある人、そして男性なのか女性なのか。読み手の立場によって分かれるのだと思います。

 

 ドラマ化・映画化されていることからも、注目度の高かった小説なのだなと思います。キャストは、ドラマは水野美紀さん、映画は松雪泰子さん。どちらも好きな女優さんなので、ぜひ見てみたいなと思います。

 

永遠のゼロ (百田尚樹/講談社文庫)

以前、V6の岡田くん主演で映画化された本書。最近DVDを見る機会があり、興味を惹かれたので読んでみようと思って手に取りました。ただ、実際に文庫を手に取ってみると意外と厚い正直零戦のこともよくわかっていないものだから、読めるかなと心配になりましたが、読み始めると意外とするする読み進めることができました。映画を見ていたので、おそらく頭の中にイメージができていたのかなと思います。映画見た後に原作をすぐに読むのは本当にオススメです。

 

 本作は、とある女性とその弟が、沖縄で亡くなった「本当の祖父」の足あとを辿っていくというストーリー。二人の祖母が亡くなった時、これまで「おじいちゃん」だと思ってきた人が実の祖父ではない、ということを知ります。そしてどうやら本当の祖父は特攻隊員として命を落としたらしい。二人は元特攻隊員の方々を訪ねて様々な話を伺っていきます。その中では、祖父が「臆病者だった」というような、聞きたくないような話も飛び出します。

 

 戦争体験者の生の声を聞くことも難しくなってきた昨今。私も戦争を体験した方からお話を伺ったことはありません。ですからこういった映画や本でしか知ることができないんですよね。ただ、そういう映像や文章を読むたびに、私は戦争について何も知らないんだなと思います。「よくないこと」という漠然としたイメージがあるだけで。

 今回この本を読んで、そして映画を見て、特攻隊員として犠牲になった方々のことを決して美談にしてはいけないんだなと思います。こんな無謀な作戦で、どうしてこんな若い命が犠牲にならなくてはならなかったのか。考えても考えても理解ができません。

 

 この本を読んで、ずっと前から行きたいと思っていた知覧特攻記念館のことを思い出しました。ちょうど2017年で30周年を迎えたこの記念館のホームページには、若くして特攻隊員として戦死した方々が家族や恋人に送った手紙を読むことができます。その手紙を読んだときの胸が詰まる感覚を思い出しました。

 

 月並みな意見だけれど、やはり戦争はいけない。きっとこれから私も母親になるでしょう。生まれてくる次の世代の子供達のためにも。そう、強く思わせてくれた映画と小説でした。

永遠の0 (講談社文庫)

マノロブラ二クには早すぎる (永井するみ/ポプラ社)

タイトルからわかるように、本作品は「マノロラニク」がキーアイテムです。

ファッションに少しでも興味がある方なら聞いたことがあるであろう、ドラマ「SATC」でも主人公が破産するほど夢中になった、美しい靴。

出版社に勤める主人公の世里は、翻訳部門を希望していたにも関わらずファッション雑誌の編集部に配属されてしまいます。だから世里はファッションに興味がなく、雑誌を作るための知識も乏しい。当然のように鬼編集長に怒られる日々が続きますが、この編集長は仕事ができてとても格好良い、世里の憧れの女性。そんな編集長が履いているのがマノロラニクなのでした。

靴に気を遣っている人って、とてもオシャレにこだわっているというイメージがあります。きっとオシャレだ、と言われる人の中には、靴に特別な思いを抱いている人は多いのでしょう。

フランスの格言に「とびきりいい靴を履くと、その靴がいいところへ連れて行ってくれる」というものがあります。私がこの言葉を知ったのは、漫画「花より男子」。それを読んで以来、靴を大切に履きたいと思ったものの、その気持ちはどこへやら。

この小説を読んで以来、ここのところ服にも靴にもあまり頓着しない自分に気づかされてげんなりしました。仕事忙しいのが終わったら靴を買いに行って美容院にも行ってこようかな。

 

この小説は、お仕事小説でもあります。野心家の先輩が主人公に話す「ピンチの後にはいいものが出来上がる」というセリフ、これは本当にそうだと思う。この小説に出てくる女性たちの仕事への熱心さには恐れ入ります。見習いたい。

永井するみさんの著書の中で初めて読んだ本。

残念ながらご本人は2010年の9月にお亡くなりになったそうです。

 

余談ですがこの本を読み終わってから、マノロラニクの値段を調べてみました。

こんなに高い靴、もったいなくて履けないなと思いましたが、もったいないと思う時点でまだまだですね。いつかこういう素敵な靴を履いて、颯爽と歩いてみたいものです。

 

([な]7-1)マノロブラニクには早すぎる (ポプラ文庫 な 7-1)

キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え! (田村 潤/講談社)

著者は元キリンビール代表取締役副社長である田村潤さん。本書は、1995年に田村さんが支店長として四国地区本部で「お荷物」と言われていた高知支店に赴任するところから始まります。

 

「ビールはキリン」という時代が長いこと続いたものの、アサヒビールの「スーパードライ」が登場して以来、キリンビールは半世紀ぶりにアサヒビールに国内トップの座を奪われます。田村さんが高知支店に赴任した時期はまさにスーパードライの勢いが乗りに乗っていた時期。

 ところが田村さんが高知支店に就任してから2年後、この「お荷物」と言われていた支店は業績を回復。そして田村さんはその後四国4県の地区本部長となり、東海地区の本部長、さらに代表取締役副社長県営業本部長に就任します。

 

 本書は「キリンビール高知支店」の話ではありますが、全ての営業マンの根底に通じるところがあるのではないかと感じましたし、営業ではない私にとっても仕事の仕方について非常に考えさせられました。

 というのも業績回復になったキャンペーン。これは、女性社員の「高知の人は、いちばんが大好きなんです」という一言にから始まり、最終的には女性社員も営業活動に巻き込みます。やはり何かを成し遂げようとするときは、明確な目標とそこに全員が向かって行動するということが必要だということがわかります。

 

 「大切なのは、「キリンのあるべき状態をつくる」「キリンのメッセージを伝える」というビジョンを実現しようとすること」であり、「どうやってそのビジョンに達成するかは、自らの決意と覚悟、どれだけ自分で考えて工夫することができるかにかかっている」と本書の中で田村さんも書かれていますが、仕事を行う人のほとんどが頭ではわかっているけれど、実行できていないことなのではないかと思います。自分含め。

 

 私自身、尊敬する上司から言われて常に頭に置くようにしている言葉があります。「実行しない目標は、ただの願い事である」。この言葉を言われた時、頭を殴られたような感覚になりましたが、本書を読んだ時にも同じような感覚になりました。やはり、何かを残す人はやり方は違えど同じような考えを持っているのだなと。

 

 この本にあるような「奇跡」は、一発逆転の必殺技があったわけではなく、支店に所属する全ての社員が地道に仕事を行なった結果なのだと感じます。正直「こんなことまでやったの?」という内容まで書かれているのですが、本当に地道というか、愚直というか。この営業活動を実行に移した社員も尊敬すべきではありますが、まずは上司である田村さんの求心力もすごいものがあるのではないでしょうか。求心力というものは一朝一夕で身につくものではありませんし、どうやったら身につけられるかというマニュアルもあるわけではない。田村さんが一人一人の社員と根気強く向き合った結果なのだと感じました。

 

 本書を手に取ったのは、会社で自己啓発の一環として先輩社員から薦められたのがきっかけでした。正直ビジネス書はほとんど読まないので、会社で薦められなければ読むことはなかったのではないかと思いますが、この本は私が何回も読み返す唯一のビジネス本です。仕事で行き詰まった時、悩んだ時、初心を忘れそうな時。買って間もないですが、書き込みや付箋でだいぶ年季が入ってきました。

 

 全ての営業マンだけではなく、きっと全ての働く人に何かしら響く箇所がある本です。そういえば書店では、本書の隣に「たかがビールされどビールアサヒスーパードライ18年目の真実(松井 康雄/日刊工業新聞社)」という本が並んでいました。こちらもぜひ読んでみたいと思います。

 

キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え! (講談社+α新書)

花や咲く咲く (あさのあつこ/実業之日本社)

中学3年生の国語の教科書に載っていたというこのお話は、あさのあつこさんが太平洋戦争を舞台に書いた青春小説です。

 

  中心になるのは、4人の女の子です。箸が転がってもおかしい年頃ですが、戦時中なので様々なものがどんどん規制され、おしゃれなんてもってのほか。でも彼女たちはあるところから美しい布を手に入れ、それぞれに似合うデザインでブラウスを縫い始めます。

 

 「あなたたちの替えはいくらでもいるけれど、ミシンは貴重だ」と言われ、空襲の時にはミシンを守れと言われるような生活の中、仲の良い友達と楽しむ秘密のブラウスづくりとファッションショーは、どれだけ彼女たちの心の慰めになったでしょうか。

 

  女の子たちが持つ「オシャレをしたい」という気持ちはいつの時代でも変わらないのに、それを取り巻く環境ひとつでこんなにも違いが出てきます。

 

 キレイだと思ったものをキレイだと言ってはいけない、友達と好きなだけおしゃべりもできない。自由が制限されていたそんな時代は確かにあったわけですが、それを咎めていた人たちは本当はどんな気持ちだったんだろう。

 

 そして戦争が終わった後、自分が信じてきた「お国のため」という言葉をどう昇華したんだろうと考えてしまいます。

 

  この小説では、戦争を舞台にしているものの直接残酷なシーンは登場しません。それでも、戦争が人々に与える影響についてじっくりと考えさせられます。

 

 今でこそそんな世界はおかしいと感じられるけれど、当時はそれが「常識」だったわけで。そうなると常識ってなんなのだろうと思います。そして、「大多数」というものに流れるのは実は恐ろしいことなのではないかな、とも。

 

  このお話を書くにあたり、あさのあつこさんはご自身のお母様に戦争の体験を詳しく聞く、ということを初めてされたそうです。

 

 どの町が空襲をうけて、何万人の人が亡くなって…というのは史実として残っているけれど、その時代に生きた人の生活や思いは残っていない。でも私たちが知りたいのは、その史実に残りにくい部分なのではないでしょうか。あさのさんも、史実からこぼれ落ちていく肉声を残せる、今書けて本当に良かった、とおっしゃっています。

 

 

 自分がしたいオシャレができて、友達と自由に笑いあえることがどれだけ恵まれたことなのか噛み締めさせられます。そんな幸せな時代がずっと続きますように。

 

花や咲く咲く (実業之日本社文庫)

知ろうとすること(早野龍五・糸井重里/新潮文庫)

2011年の大震災が起きて、福島の原発のニュースが絶えなかった頃、どの情報を信用していいのかわからなかった時期がありました。私個人としては、大切な人が福島に住んでいることもあって大丈夫だと信じたかったのですが、自分の中で根拠となるものが見つけられずに不安でたまらなかった。

 

 この本は糸井重里さんと東京大学大学院理学系研究科教授の早野龍五さんが出版された本ですが、出会いは糸井さんのツイッター。お二人もツイッター上で出会われたそうです。震災直後、早野さんはツイッターで事実を分析して発信し続けていました。そのツイッターが心の拠り所となっていた人も多かったと聞きます。

 

 やたらと安全だと叫ぶ人、何が何でも危ないと主張する人。様々な人がいましたが、そういう人たちの話に嫌悪感すら感じていたのは、根拠とセットになっていなかったから。

 でもこの本は、ひとつひとつ事実に基づいて話が組み立てられているので、ストンと自分の中に「落ちてくる」という感覚がありました。

 

 筆者の早野さんは、淡々と事実だけを語っていて感情的になりません。科学的な根拠もちゃんと示されているのだけれど、小難しい分析データや表はほとんど入っていないので難しく感じないのです。自分の頭できちんと理解ができるから、これなら信用できるなと思いました。本書の中にある「正しい知識で、正しく怖がる」という言葉は本当に大事なことです。

 

 震災後しばらく、FacebookTwitterでショッキングな情報をシェアしまくっていた人が周りにもいましたが、根底にある気持ちはやっぱり「怖い」という不安だったのでしょうね。ただ、むやみに拡散する人って私は好きになれませんが。他の人に良かれと思って拡散しているのでしょうけれど、結局不安を煽ることにしか繋がらないから。

 

 192ページの文庫本なので決して長いと感じる分量ではありません。その上、対談形式で進んでいくから読みやすいのに、本当にたくさんのことが詰まっています。不安になった時に、その不安とどう立ち向かえばいいかを知るために、読んでおいて損はしない本です。

 

知ろうとすること。 (新潮文庫)