キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え! (田村 潤/講談社)
著者は元キリンビール代表取締役副社長である田村潤さん。本書は、1995年に田村さんが支店長として四国地区本部で「お荷物」と言われていた高知支店に赴任するところから始まります。
「ビールはキリン」という時代が長いこと続いたものの、アサヒビールの「スーパードライ」が登場して以来、キリンビールは半世紀ぶりにアサヒビールに国内トップの座を奪われます。田村さんが高知支店に赴任した時期はまさにスーパードライの勢いが乗りに乗っていた時期。
ところが田村さんが高知支店に就任してから2年後、この「お荷物」と言われていた支店は業績を回復。そして田村さんはその後四国4県の地区本部長となり、東海地区の本部長、さらに代表取締役副社長県営業本部長に就任します。
本書は「キリンビール高知支店」の話ではありますが、全ての営業マンの根底に通じるところがあるのではないかと感じましたし、営業ではない私にとっても仕事の仕方について非常に考えさせられました。
というのも業績回復になったキャンペーン。これは、女性社員の「高知の人は、”いちばん”が大好きなんです」という一言にから始まり、最終的には女性社員も営業活動に巻き込みます。やはり何かを成し遂げようとするときは、明確な目標とそこに全員が向かって行動するということが必要だということがわかります。
「大切なのは、「キリンのあるべき状態をつくる」「キリンのメッセージを伝える」というビジョンを実現しようとすること」であり、「どうやってそのビジョンに達成するかは、自らの決意と覚悟、どれだけ自分で考えて工夫することができるかにかかっている」と本書の中で田村さんも書かれていますが、仕事を行う人のほとんどが”頭ではわかっているけれど、実行できていない”ことなのではないかと思います。自分含め。
私自身、尊敬する上司から言われて常に頭に置くようにしている言葉があります。「実行しない目標は、ただの願い事である」。この言葉を言われた時、頭を殴られたような感覚になりましたが、本書を読んだ時にも同じような感覚になりました。やはり、何かを残す人はやり方は違えど同じような考えを持っているのだなと。
この本にあるような「奇跡」は、一発逆転の必殺技があったわけではなく、支店に所属する全ての社員が地道に仕事を行なった結果なのだと感じます。正直「こんなことまでやったの?」という内容まで書かれているのですが、本当に地道というか、愚直というか。この営業活動を実行に移した社員も尊敬すべきではありますが、まずは上司である田村さんの求心力もすごいものがあるのではないでしょうか。求心力というものは一朝一夕で身につくものではありませんし、どうやったら身につけられるかというマニュアルもあるわけではない。田村さんが一人一人の社員と根気強く向き合った結果なのだと感じました。
本書を手に取ったのは、会社で自己啓発の一環として先輩社員から薦められたのがきっかけでした。正直ビジネス書はほとんど読まないので、会社で薦められなければ読むことはなかったのではないかと思いますが、この本は私が何回も読み返す唯一のビジネス本です。仕事で行き詰まった時、悩んだ時、初心を忘れそうな時…。買って間もないですが、書き込みや付箋でだいぶ年季が入ってきました。
全ての営業マンだけではなく、きっと全ての働く人に何かしら響く箇所がある本です。そういえば書店では、本書の隣に「たかがビールされどビール―アサヒスーパードライ、18年目の真実(松井 康雄/日刊工業新聞社)」という本が並んでいました。こちらもぜひ読んでみたいと思います。